ラルフ・ウォルドー・エマーソン
Ralph Waldo Emerson, 1803-1882
[伝記]
アメリカの詩人、作家、思想家。ソローと並んで、超越主義(超絶主義Transcendentalism)を代表する。1803年、ボストン生まれ。ハーヴァード大学の神学部で学んだ後、26歳で牧師となった。しかし、教会の儀式が、信仰とは無縁の形式であると批判し、また、精神の独立を欲して辞職。感覚よりも霊性を、文辞よりも精神を、儀式よりも信仰を尊重した。カントやプラトンの思想にあこがれ、個人が自己に目ざめ、一刻一刻を自己超越の段階として生活することを主張した。カーライルと親しく、3度、渡英した。1882年、居住していたマサチューセッツ州コンコードにて、78歳で死去。
[概要]
・「超越主義」とは、R.W.エマソンやH.D.ソローを代表者とする現代アメリカ思想の一つ。イギリスロマン主義の詩人S.T.コールリッジ(1772-1834)や、イギリスの思想家T.カーライル(1795-1881)などに触発され、「人間精神には、実在把握にかんして感覚的な経験を超越した詩的で内在的な能力がある」とする立場。
・エマソンは、「考える人間としての学者が受ける最も重要な影響は、自然からの影響であると述べたのちに、自然と魂が同じ根からでていること、両者は印鑑と押印されたしるしのように、合致し、自然の美しさは人間精神の美しさであり、「汝自身を知れ」という古代哲学の教えと、「自然を研究せよ」という近代科学の教えとは、結局同じ」だとする。思想の基盤に人間の具体的生活があることを強調し、そこから、新しいものを築きあげる人や、シェイクスピアのような人が現れると考える。思考と行動の密接な関係を主張し、互いに表現しあうと言うとともに、思想が理解されず、書物が退屈なものになったときには、「生きてみる=実際に行動してみる」ことがよりどころになるという。そして、自分自身で働き考えることを肯定し、人間が「神聖な魂Divine Soul」(のちに「大霊(Over-Soul)」と呼ばれる)によって命をふきこまれていると信じることで、人間が集う一つの国が出現することを訴える。一人一人がそうした人間を超越したものの存在を認めるとともに、それによって命をあたえられた個人の尊厳を認め、その結果、個人が国家に対して優位であることを説く。
・上記の主張は、現代アメリカ思想に多大な影響を与えている。また、エマソンの弟子ともいうべきソローに独自に継承されている。
・アメリカのプラグマティズムの主要なテーマを、エマソンはすでに示しており、その創生に影響を与えている。さらに、後のアメリカのプラグマティストたちがヨーロッパの主流哲学からそれていくことを可能にし、それを促すかのような文化批評の知的形式を具現している。また、エマソンの主張はアメリカ人に思想的な自立をうながすだけでなく、その後のアメリカ思想の展開に大きな影響を与えた。
(魚津33頁以降、『哲学事典』167頁、ウェスト、を参照。)
[主要著作]
Nature, 1836(『自然論』岩波文庫)
Essays, 2巻、1841-43(『随筆論文集』3巻、岩波文庫)
Complete Works of R. W. E., 1903(『エマソン選集』、7巻、日本教文社、1960-61年)
[参考文献]
・魚津郁夫『プラグマティズムの思想』、ちくま学芸文庫、2006年。
・『哲学事典』下中邦彦編、平凡社、1971年、167頁。